2015年4月1日水曜日

五楽章〜その4

場所は隣町にあるスーパーマーケット。
歩いて行くには少し遠いけれど、車なら数分で着ける距離にある。
 
ちなみに私たちの交通手段はバイク。このバイクの持ち主はお姉さんで、普段は我が家の倉庫にしまわれている。この島に来た時の交通に困らないように、ここに置いているらしい。

「昔みたいに振り落とされないようにね!」
 
私が後ろに乗ろうとすると、お姉さんは笑いながらそう言った。
 
それは、7年前のこと。

私は今のようにお姉さんが運転するバイクの後ろに乗っていて、バイクがカーブで傾いた時に、それに反応できなくてそこから落ちてしまった。
 
そんな出来事が過去にあり、それは私のトラウマ。
だから本当はバイクに乗るの...ちょっと怖いんだけどな。

「それじゃ、出発するよー」
 
私が乗ったのを確認して、お姉さんはエンジンをかけた。私は振り落とされないように、その背中をガッチリとホールドする。
 
その時ふと、懐かしさを感じた。

そういえば、あの頃はこうやってお姉さんと一緒にいるのが好きなんだったな。あれ、じゃあどうして今は苦手なんて思っているんだろう。
 
こうしているとバイクに乗っていても全然怖くないな。それに、胸があったかくって気持ちも落ち着く。

そっか。これってお姉さんのぬくもり。
私、忘れていたんだね。

「夏姉……」

私はその背中にそっと呟いた。懐かしの日々を想いながら。
 
そんなことを考えているうちに、私たちは目的のスーパーマーケットに到着した。店が大きくて品揃えがいいから、買い物客がたくさんいる。
 
こういうお店はあると便利だけど、その影響で他の小さな商店がなくなってしまうのは、少し寂しいな。
 
お姉さんは店内に入ると、まずは野菜から物色し始めた。私はカートを押しながらその後について行く。
 
最初にお姉さんは袋詰めにされたトマトを手に取ると、裏面に貼られているタグをしばらく見てから買い物かごの中に入れた。お母さんなら値段くらいしか見ないのに、ずいぶん慎重なんだなぁ。
 
そう思いながら陳列しているトマト達を見てみる。すると、お姉さんはその中で2番めに高いものを選んだことに気づく。一番安いものと比べると、2倍以上の値段をしている。

「あの、こっちの方が安くないですか?」
 
私が問うと、お姉さんはちらとそっちを見て答える。

「安いんだけど、外国産のものは買わないようにしてるんだよ」
 
そして今度はレタスを手に取って見始めた。
 
なるほど、外国産のものは駄目なんだ。そういえば小学生の時の社会で、そんなこと習った気がする。
 
レタスの次はキュウリ。サラダの材料を買ってるんだろうな。
 
退屈してきたので、私も商品を手に取ったりしてみる。

「あ、お姉さん。これ国産のだし安いよ」

「ん? あーそれね。それも買えないんだよね」

「え、でも国産だよ?」
 
私がそう言うと、お姉さんは少し考える仕草をした後、口を開いた。

「えっとね、こういう野菜は色んな薬を使って育てられてるの。で、それは私たちの体にとって良くないの。食べると病気になっちゃったりするんだよ。」

「そ、そんな物が売られてるの!?」

「そう。しかもそれは野菜に限ったことじゃないんだよ」
 
その後しばらく夏姉の話を聞いた私は、複雑な気持ちになった。今まで私が食べてきた物は、極端に言えば毒みたいなもので、しかもそれを好き好んで食べていたことになる。信じられる話じゃないし、できれば信じたくない。けれど、夏姉が嘘を言っているとも思えない。
 
頭の中が混乱して、何が正しくて何が正しくないのか、分からなくなってきた。私の常識を否定されているみたいだ。
 
ん? 常識を否定される? 前にもこんなことがあった気がする。そうだ、誰かに言われたんだ。「そんな常識に縛られているから」って。でも、誰に? 親? 先生? それとも友達? 

いや違う、フラッチーだ。

私が何かを買おうとした時に、常識がどうとか言って邪魔をしてきたんだ。
 
でも、その時私が買おうとしていた物って、夏姉の話からすると、私の体にとって良くない物ってことになるんだよね。そう考えると.....フラッチーは、さっき夏姉が教えてくれた事とおんなじようなことを、伝えようとしていたんじゃないだろうか。
 
なんだか、申し訳ない気持ちになってきた。

私は彼女の言っていた言葉の意味に気づかず、ただ腹を立てていただけなのだから。
 
フラッチーに会って謝らないと! 
そう思った時にはもう、私の体は動き出していた。
 


イラスト byえま
 
 

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