2015年3月18日水曜日

五楽章〜その3

私が玄関に着いたのと同時に、扉は開かれた。

最初に入ってきたお父さんに続いて、おばさんと、見知らぬ男性が一人入ってくる。
 
おばさんと言っても、歳はまだ20代で、子供の頃によく遊んでくれたこともあって、私にとってはお姉さんのような人だ。

お母さんは、兄弟姉妹が多い。その中で一番年上なのがお母さんで、おばさんは末っ子になる。だからこの2人は姉妹だけどかなり歳が離れている。お母さんが年齢を教えてくれないから、どれくらい離れているのかは知らないけど。

「お邪魔しまーす。お、うららちゃん、久しぶり。元気してた?」

「はい。お久しぶりです、おばさん」

 私がそう返すと、おばさんは少し不服そうな顔をする。

「もー。随分見ないうちによそよそしくなっちゃって。それとうららちゃん。私はまだ20代なんだから、おばさんじゃなくてお姉さんでしょ。あ、昔みたいになつみお姉ちゃんって呼んでくれてもいいわよ」

そう言っておばさん、じゃなくてお姉さんはいたずらに笑い、私の頭を優しく撫でた。
そんな風に撫でられると、ちょっと気持ちいい。でも、未だに子供扱いされてるっぽいのは嫌だ。この人は私をよく子供扱いするから、苦手なんだよね。

「あっと、そうそう。それでこっちが私の旦那さんになる予定のジープ。オーストラリアで出会った漁師さんなの」

ということは、オーストラリアに行ったんだ。良いなぁ。私も行ってみたい。

「ドウモ、はじめまして」

エセ外国人っぽい日本語で挨拶をした彼は、爽やかな笑みを浮かべている。
金色の髪に碧い瞳。それだけでもう日本人ではないことが分かる。しっかりとした体格をしていて、確かに近所の漁師さん達と同じ雰囲気を感じる。海とか船が似合いそうだ。

「え、えっと。マイネームイズうらら。な、ナイストゥーミートユー」

その見た目に影響されて、つい言葉が英語になってしまった。それもかなり拙い英語に。
それを見ていたお父さんは苦笑い浮かべ、お姉さんは微笑ましそうにしている。は、はずかしい〜。

「うららさんデスネ。私は日本語ぜんぜん平気デース」

「そうそう。私がしっかり叩き込んでおいたから。ところで、姉さんは?」

「ああ、お茶の用意でもしてるんじゃないかな。それよりも上がってよ。案内するから」

 そう言うと、お父さんは二人を連れてリビングへと入っていった。もう挨拶したし部屋戻っててもいいかなーと思いながらも、一応その後についていく。

「姉さん! ん? 老けた?」

 私がリビングに入ると、いきなりそんな声が聞こえてきた。ていうか、ど直球すぎる。私もそう思っていたけど口にはしなかったのに。

「あんた、他に言うことは無いのかい」

お母さんはこめかみを押さえながら溜め息をついた。久々に会えたというのに、あんまり嬉しそうじゃない。まあ、いきなり「老けた?」なんて言われたらね。

「それで、そっちにいるのがあんたの彼氏?」

コップにお茶を注ぎながら、お母さんはそう尋ねる。ちなみにそれはパパイア茶。フルーティーで美味しいんだ。

「ハイ、はじめまして。私はジープといいマス。よろしくお願いしマス」

「あら、イケメンさんじゃない。夏海にはもったいないくらいだわ。オホホ」

さっきの仕返しというように、意地悪く言うお母さん。これが姉妹喧嘩ってやつなのかな。喧嘩って程でもないか。そうして皆が椅子に座って談笑を始め.....私は隅の方でおとなしくお茶を飲みながら、四人の会話に耳を傾けていた。

しばらくすると、昼ご飯用の食材を買いに行こうという話になった。

「一緒に行こうよ姉さん」

とお姉さんが誘うも、お母さんは嫌そうな顔をする。

「嫌よ。あんた行くとめんどくさいんだから」

「えー、じゃあ……うららちゃん一緒に行こっか」

「え、わ、私?」

まさか私に矛先が向くとは思わず、戸惑ってしまった。

「まあ、別にいいですけど」

あまり乗り気ではないけれど、断っても意味がないことを知っているので、おとなしくついて行くことにする。

「よし。じゃあ準備するからちょっと待ってて」

 そう言われたので、私も部屋に行って荷物を取り、玄関で待機する。
 というわけで、お姉さんと一緒に買い物に行くことになりました。


イラスト byえま

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