2014年12月10日水曜日

三楽章〜その5

「なるほど。あなたのことはだいたい分かった。
でも、幽霊なんでしょ? どうして私、見えてるの?」

〝うーん、見える人には見えるんだよ。多分〟

 多分って、そんな適当な。
でも私に見えるって、なんで?もしかして霊感があるの?
うそだ〜今までなんにも見えたことないのに。

〝ところで、フララはどの辺りに住んでるの?〟

「えっと、この島の北東の方だけど。
 それがどうかしたの?」

 と、反射的に答えてしまったけど。

今、このイルカさん.....
私のことフララって呼ばなかった?

〝もうすぐ正午になるけど、君たちはこの時間になったらご飯を食べるでしょ? フララは家に帰らなくて大丈夫なのかなーって思って〟

やっぱりそうだ。

もしかして、誰かと間違えてるんだろうか。

「あの、私、フララじゃなくて、うららなんだけど」

〝ん? あーそっか。今はそう言う名前なんだったね。ごめんごめん〟

「え? それ、どういうこと?」

〝いやいや、気にしないで。それよりも、時間大丈夫なの?〟

そう言われると気になってしまう。
携帯で時間を確認してみると、12時まであと5分だった。

そういえば、なんでこのイルカは時間が分かったんだろうか。さっきの発言といい、謎が多すぎる。いや、そんなことよりお昼ご飯だ。お腹すいた.....

鞄から財布を取り出して中を確認してみる。
帰りのバス代を考えると、お金足りない。
何も賈えなさそうだ。
というか、お店なんて周りに無いけど。

だとしたら、家に帰らなきゃ。

「そろそろ帰った方がいいかも。お腹も減ったし」

〝そっか、じゃあ帰っちゃうんだね……〟

「うん。それでさ、あなたは名前、あるのかな?」

〝うーんとねー。フラッチー。皆からそう呼ばれてたよ〟

「じゃあ、私もそう呼んでいいかな?」

〝もちろん!〟

 今までで一番良い笑顔で、そう答えてくれた。

「うん、ありがとう。それじゃ、バイバイ、フラッチー」

フラッチーに手を振り、私は海を背に歩き出した。
また会いに来よう。そう思いながら。

 
「あの.....。何でついて来てるの?」

 私は、さっきから後ろで物珍しそうに周りを見回している、イルカの幽霊、通称「フラッチー」にそう問いかけた。

〝ん? なんか面白そうだと思って〟

「さっき、別れのあいさつ言ったのに……」

なんとか道無き道を通って道路に出、そしてバス停までやって来た。やって来たのだが、何故かフラッチーもここまでついて来たのだ。最初は見送りに来てくれているのだと思っていたが、そんな雰囲気ではなさそうだった。だから、何か用事でもあるのかと思ったのに、面白そうって……。

「まあ、別にいいけどさ。家までついて来ることはないでしょ?」

〝おお、それいいね!そうしよう!〟

 しまった。余計なことを言ってしまったかもしれない。

「それ、本気で言ってないよね?」

〝うららの家、どんな所だろうなぁ〟

 このイルカ、本当に来るつもりだ。
あの発言がいけなかったか……。でも、少しくらいいいかな。

しばらくするとバスがやって来たので、私はそれに乗り込んだ。

フラッチーはどうするんだろうと思って見ていると、壁をすり抜けて入って来た。他の人が驚いたりしてない、やはり私以外の人には見えていないようだ。

〝バスに乗るなんて、初めてだよ! 
 なんかすごいなぁ!〟

普通イルカがバスなんかに乗らないでしょ、と思ったけど、フラッチーに関しては存在自体が普通じゃないので、口にするのは止めておいた。

向こうに着くまでに30分はかかるし、
色々と疲れたので少し寝ることにした。

バスを降りた後、隣ではしゃいでるフラッチーを適当にあしらいながら、帰路についた。



イラスト byアオイ

0 件のコメント:

コメントを投稿