〝へー。ここがうららの家かー。巨大な箱だね!〟
「箱って……でもまぁ、そんなもんなのかな」
私は玄関の扉を開け、中へと入って行く。
フラッチーも続いて入って来た。
「ただいまー」
〝お邪魔しまーす!〟
靴を脱いでスリッパに履き替え、洗面所で手洗いとうがいをした。ちなみに、フラッチーが私の行動を興味深そうに見て、私の靴に尾びれを突っ込んだりしていた。かわいい。
〝人の住む家の中って、こんなに区切られてるんだ。
外からは広そうに見えても、中は狭いんだね〟
廊下を歩いていると、フラッチーがそう話しかけてきた。
人の家に入ったのが初めてなんだろう。
当然か。
そういえば、フラッチーって、人間のことをどれだけ知っているんだろうか。今更だが、日本語を普通に話しているし、人間の生活の事も知っている。でも、今もそうだし、さっきのバスの時もそうだったように、知識として知っていても、実際に見たりしたことは無いのかもしれない。
うーん、それも当然か。
海で暮らしてたわけだし。
けど、結構私達のこと知ってる。不思議だ。
そんなことを考えながら台所に向かった。とりあえず何か口に入れようと思って冷蔵庫を開けようとすると、お母さんが台所にやって来た。
「あら、帰ってたの」
「あ、お母さんただいま。ご飯ってすぐ食べれる?」
「そうね、ご飯はもう炊けてるし、簡単に炒め物作るからちょっと待ってなさい」
「はーい」
それならすぐに食べれるだろうと思い、テーブルで待つことにした。
〝ねぇ、うららのお母さん、何作ってるの?
「野菜炒めとかじゃないかな、すぐできる物だし。」
お母さんには聞こえないように、声を小さくして答えた。ほら、私は会話してるつもりでも、他の人からは一人で喋ってるように見えるからさ。
〝うおおー、火だー!〟
フラッチーは台所の壁から顔を突き出し、お母さんの料理の様子を見てはしゃいでいた。壁をすり抜けられるの、便利そうだなー。
そう思いながら壁から飛び出たフラッチーの尾びれを見ていると、お母さんの呼ぶ声が聞こえた。料理が出来たらしいので、台所に行き、ご飯とおかずをよそって席に着いた。
案の定野菜炒め。具に卵が入っていてうれし〜い。お母さんも自分の分の料理を持って来て、二人でいただきますと言って食べ始めた。
〝人間のご飯ってどんな味なんだろう。食べてみたいなぁ〟
すごくわくわくしながら、出来たての野菜炒めを見てそう呟いているが、食べることができるんだろうか。
「幽霊になっても、食べることってできるの?」
〝ううん。物に触ることができないから、無理だと思う〟
そう言ったフラッチーは、少し悲しそうだった。
口ではああ言っていても、やっぱり魂だけになってしまったこと・・・ちょっと悲しいんじゃないだろうか。
イラスト byアオイ
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