砂の上にはたくさんの足跡が残っていた。
昨日は大勢の人が見物に来てたのだろう。今は私しかいない。ここはもともと、あまり人が来るような場所じゃないし.....浜辺って言ってもその面積は少しで、周りは岩ばっかり。それに、整備された道も無い隠れ家のようなところ。
しかし、せっかくここまで来たのに何も無いなぁ。というよりも、どうしてあんなにこの場所に来たいと思ったんだろう。バス代結構するのになぁ。せっかく来たんだから、何か無いかな。せめて夏休みの自由課題の題材になりそうな...
そう思って辺りをウロウロと探索していたが、ヤドカリを数匹見つけたくらいだった。一時間くらい何も無いまま時間が過ぎていった。なのに私は、それでも帰る気にはなれず、砂の上に腰掛けて海を眺めていた。
別に何かを期待していた訳じゃない。いや、少しは期待してたかもしれない。でも、なんとなく、その場所を離れたくなかったのだ。
すると突然、海面から何かがひょっこりと現れた。
何だろうと思いそこに目を凝らしてみたけど、次の瞬間にはもう消えていた。海に波紋ができてないし、気のせいだったのかな。
それをきっかけに、家に帰ろうと思った。立ち上がって砂を払い落とし、荷物を持った。帰ろうとして振り返った視線の先に、空中に浮いていて、体が透き通ったイルカが私の目の前にいた。
「きゃあァァァ!!」
私は驚いて思わず声を上げ、倒れてしまった。信じられない光景を目の当たりにしている!もう一度よく見てみるが、やはりそこには半透明のイルカがふわふわと浮かんでいた。
だけど、大きさはティッシュの箱程で、小さい。リアルなぬいぐるみって感じだ。
〝あはは。そんなに驚かなくてもいいじゃない〟
「え?」
私が目を丸くしていると、声が響いてきた。
周りを見回してみても、どこにも人影はない。誰がどこから話してるんだろう?
〝あたしだよあたし〟
また聞こえてきた。でも、やっぱり誰もいない。ここにいるのは私と目の前のこの訳の分からないイルカだけだ。あーだめだ、混乱してきた。何がどうなってるのよ。
〝もー、早く気付いてよ。目の前にいるじゃない〟
目の前?
「もしかして、あなた、ですか?」
私はこの謎イルカにそう訪ねた。
イルカは、うんとうなずいてから〝そうだよ〟となんだか楽しそうに答えた。なるほど。声の主はこのイルカだったのか。
「って、イルカがしゃべった!?」
〝違う違う、これはテレパシーだよ〟
「て、テレパシー!? そんなことできるんですか!?」
〝うーん。多分そうだと思う。ていうか大丈夫?びっくりさせちゃったかな...〟
そう言われてはっとなる。頭の中が混乱してる。冷静さを失っているかも。っていうか、こんな時に冷静でいられる?
と、とにかく。
よし、まずは状況を整理してみよう。
半透明で宙に浮いている小さなイルカが私に話しかけている。目の前ではそのイルカが旋回して遊んでいる。
え〜っと。
なに?この状況は。
0 件のコメント:
コメントを投稿