2014年11月19日水曜日

三楽章〜その3

砂の上にはたくさんの足跡が残っていた。

昨日は大勢の人が見物に来てたのだろう。今は私しかいない。ここはもともと、あまり人が来るような場所じゃないし.....浜辺って言ってもその面積は少しで、周りは岩ばっかり。それに、整備された道も無い隠れ家のようなところ。

 しかし、せっかくここまで来たのに何も無いなぁ。というよりも、どうしてあんなにこの場所に来たいと思ったんだろう。バス代結構するのになぁ。せっかく来たんだから、何か無いかな。せめて夏休みの自由課題の題材になりそうな...

 そう思って辺りをウロウロと探索していたが、ヤドカリを数匹見つけたくらいだった。一時間くらい何も無いまま時間が過ぎていった。なのに私は、それでも帰る気にはなれず、砂の上に腰掛けて海を眺めていた。

 別に何かを期待していた訳じゃない。いや、少しは期待してたかもしれない。でも、なんとなく、その場所を離れたくなかったのだ。
 
すると突然、海面から何かがひょっこりと現れた。

何だろうと思いそこに目を凝らしてみたけど、次の瞬間にはもう消えていた。海に波紋ができてないし、気のせいだったのかな。

それをきっかけに、家に帰ろうと思った。立ち上がって砂を払い落とし、荷物を持った。帰ろうとして振り返った視線の先に、空中に浮いていて、体が透き通ったイルカが私の目の前にいた。


「きゃあァァァ!!」


 私は驚いて思わず声を上げ、倒れてしまった。信じられない光景を目の当たりにしている!もう一度よく見てみるが、やはりそこには半透明のイルカがふわふわと浮かんでいた。

だけど、大きさはティッシュの箱程で、小さい。リアルなぬいぐるみって感じだ。


〝あはは。そんなに驚かなくてもいいじゃない〟


「え?」


私が目を丸くしていると、声が響いてきた。

周りを見回してみても、どこにも人影はない。誰がどこから話してるんだろう?


〝あたしだよあたし〟


 また聞こえてきた。でも、やっぱり誰もいない。ここにいるのは私と目の前のこの訳の分からないイルカだけだ。あーだめだ、混乱してきた。何がどうなってるのよ。


〝もー、早く気付いてよ。目の前にいるじゃない〟


 目の前?

「もしかして、あなた、ですか?」


私はこの謎イルカにそう訪ねた。

イルカは、うんとうなずいてから〝そうだよ〟となんだか楽しそうに答えた。なるほど。声の主はこのイルカだったのか。

「って、イルカがしゃべった!?」


〝違う違う、これはテレパシーだよ〟


「て、テレパシー!? そんなことできるんですか!?」


〝うーん。多分そうだと思う。ていうか大丈夫?びっくりさせちゃったかな...〟


 そう言われてはっとなる。頭の中が混乱してる。冷静さを失っているかも。っていうか、こんな時に冷静でいられる?

と、とにかく。
よし、まずは状況を整理してみよう。

半透明で宙に浮いている小さなイルカが私に話しかけている。目の前ではそのイルカが旋回して遊んでいる。

え〜っと。

なに?この状況は。
何が、一体、どうなってるの……?



イラスト byアオイ

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