「あれ、うらら、さっきのTシャツ買うんじゃなかったの?」
「うん、気が変わった。別にそんな良いものでもなかったし」
「ふーん。うららクジラとか好きそうだから買うと思ったんだけど」
「まあ嫌いじゃないけどね」
そんなやりとりをしていると、香澄がお金を支払い終わっていた。途中からやけくそ気味だったレジのお姉さんは、かなりお疲れ...かわいそ〜だ。
その後かんなが会計を済まし、三人で六階の書店に行く。
もちろんフラッチーもついて来ている。でも、何も話しかけて来なくなった。まあ、元々人前では話しかけて来ないように言ってるから、いいんだけど。むしろ今までが喋り過ぎだったんだからね。
ただ、彼女がそうやって静かにしていると、なんだか、落ち着かない。それに、これはずっと感じていた事なんだけど、今朝会ったばかりなのに、昔から一緒にいたように思うのは、どうしてなんだろう。
何か話そうかと思い、フラッチーの方を見る。しかし、さっきの事を思い出すと、彼女から顔を背けてしまう。どうせまた常識がどうとか言われるんだろう。そう思うと、彼女と話をするのをとまどってしまう。
「うららー、次行くよー」
急に名前を呼ばれ、はっとなる。
「え、もうそんな時間?」
そこで...時間をチェックしながら同時に今の自分を理解した。ここに来てからずっと、フラッチーの事を考えていたんだ、と。そうしている間に周りで周りでは勝手に時間が経っていた。本とかまるで見れなかったなぁ。
次は映画を見る予定だから、本も服もあきらめよう。もう、いいや。なんだか。
「そういえばさ、映画って何見るの?」
デパートから映画館への道すがら、気になっていた事を二人に尋ねる。
「ふふふー。それはねー、着いてからのお楽しみなんだよー」
香澄は意地悪そうな笑顔を浮かべている。これは何か悪しき事を企んでいる顔だな。
「そう言われると余計気になるよー」
「もうすぐ着くんだからそれまで待てって」
そう言うかんなも顔がニヤけている。なんだか悪い予感がして来た。
映画館の中に入り、チケット売り場にやって来た所で、私は全てを理解した。映画上映の予定表の中に、ホラー映画があった。おそらく二人は、この映画を見るつもりなんだろう。とすると、私が取るべき行動は一つだ。
「あ、こらまてうららっ!」
逃げるしかない! ホラー映画なんて絶対みたくない!
しかし、既に後ろに回り込んでいた香澄に捕まえられ、私はカウンターへと連行されて行った。「く、ホラー映画は、ホラー映画だけはー!」
私の抗議も虚しく、三人分のチケットが、購入されてしまった。
「まあ落ち着きなって。この映画、クジラがメインだからうららでも大丈夫だって」
「え、クジラが?」
本当に最近よく出て来るなぁ、クジラ。
「そうだよー。だからうららちゃん喜ぶかなって思って」
「いや喜ばないよ。ホラーなんだから」
どうしてよりによってホラー映画なのよ 他に楽しい映画とか無かったの? そうは思いながらも、クジラというところが、何故か気になってしまう。
私は、期待と不安の思いで、シアター内の、指定された席に着いた。上映開始だ。
イラスト byTaka
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