2015年3月4日水曜日

五楽章〜その1

 思いきって扉を閉めた私だったけど、冷静になって考えてみると、フラッチーは物質をすり抜けられるわけだから、そんなことしても意味は無いんじゃないだろうか。そう思うと心配になってきた。

 私は玄関を入ってすぐ右にある客室に入り、扉をすこし開けて見張っていた。しばらくそうやっていたけど、何の変化も無い。外を確認するために部屋から出て、玄関の扉を少し開けて外を覗いてみたけど、そこにフラッチーの姿は無かった。

「ふぅ、もう行ったかな。さすがにそこまで空気が読めないわけじゃないよね」

 フラッチーがどこかに行ったことに一安心し、私は自室に戻る。なんか邪魔者がいなくなったみたいですっきりするな。よく喋ってたからすごく静かに感じるし。でも、なんかちょっと落ちかない。どうしてだろう。

「と、そうだ。晩ご飯の準備しないと」

 荷物を片付けて台所へ向かう。すると、お母さんが何かを揚げていた。

「お母さん、今日の晩ご飯何?」

「今海老を揚げてるところよ。あ、そこのサラダお皿に盛りつけといて」

 やった、海老フライだ〜あとあおさのテンプラも!美味しいんだよね〜これ♡今日一日、ほっんと色々あったから、とにかく私はお腹がすいていた。

「はーい。えっと、お父さんの分は?」

「今日も遅くなるって言ってたわ。だから二人で先に食べちゃいましょ」

「そっか。忙しいんだね、仕事」

 うちのお父さんは、よく言うサラリーマン。仕事の事とかよく分からないけど、なんか色々こき使われてそうだなぁ、お父さん。せめて心の中でエールでも送っておこう。ガンバレ! お父さん!でも、先にご飯食べちゃうんだけどね。

「「いただきます」」

 食べる用意が整い、お母さんと二人で食べ始まる。しばらくサクサクいう音が聞こえていたけど、ふと、お母さんが食べるのを止めて、私を見た。

「そういやあんた、高校どうすんの? 受験勉強とかちゃんとやってるの?」

「あ、えーと……まだ決まってないんだよね、どこに行くか」

 それにしても、ほんとお母さんってこういう話ばっかりだよね。毎日のように勉強しろって言われるんだから。これからもっと言われるようになるんだろうなぁ。考えたら憂鬱になる。

「そ。特にどうとか言うつもりはないけど、早いうちから決めといたほうがいいわよ。それと、今日見たいに遊びに行くのも控えなさいよ。あんたは受験生なんだから」

「うん。分かってるけど」

 受験生、か。あんまり実感湧かないなぁ。
 晩ご飯を食べ終わった後は、しばらくテレビを見て、部屋に戻ってきた。しょうがないから勉強でもしようと思って勉強机の前に腰掛け、鞄から夏休みの宿題用に渡された問題集を取り出す。

「はぁー。どうして休みなのに勉強しなきゃいけないのかねぇ」
 
そうは言っても、宿題を放棄することなんてできないし、受験の事とかを考えたら、やっぱりやらないと駄目だよね。最初が厳しいだけで、やり始めたら集中してバンバン問題解いていっちゃうんだから。そう思ってシャーペンを握った。
 
そして5分後。

「あーだめだ! 分からない! 何この問題。こんなの授業でやったっけ?」
 
開始早々、私は壁にぶち当たってしまった。最初のほうに習ったところって、けっこう忘れちゃってるのね。

「もーう!やるき出て来ないし...一休みだな。気分転換に音楽でも聴こっかな」
 
そう言って席を立とうとした時、机の端に置かれているラジカセを見て、ふと思い出した。

そういえば、昨日ちゃんと聴けなかったから、もう一回聴こうと思ってたんだ。BGMにちょうどいいかも。私はイアホンを耳につけ、ラジカセの再生ボタンを押す。昨日と同じようにノイズが流れた後、ゆっくりとした、甲高い音が聞こえてくる。気持ちいい音だなぁ。なんか寝てしまいそうなる。

「だめだめ、ちゃんと勉強しないと」

私は自分の頬を軽く叩いて眠気を飛ばし、シャーペンを握り直した。そしてそのまま、机に伏せて瞳を閉じた。




イラスト byえま

0 件のコメント:

コメントを投稿