2015年2月11日水曜日

四楽章〜その5

この映画を簡単に説明すると、かつて捕鯨によって人間に捕らえられてきたクジラ達が、その復讐にゾンビとなって現れ人間を襲う...というものだった。
 
私はその映画に、怖さよりも悲しさを感じた。別に怖くなかったわけじゃない。ただ、それ以上に、クジラが人間を襲うという事が、とっても悲しかった。たとえゾンビだとしても、映画の作り話だとしても、とても哀しかったのだ。

クジラは人を襲わない...勝手にそう思っていた。
変な固定観念が私にある。だから、ショックを受けたんだ。

そして、一つ疑問ができた。
それは、クジラは本当に人間を襲ったりしないのか、という事。

そして、自分の思い込みのこと。

今まで、クジラは人を襲ったりしないって...
そんなことはありえない、って、思っていた。
でも、何故だろう。本に書いてあったわけじゃない。誰かにそう教えてもらってわけでもないのに、何故私はそう思い、信じていたのか。

昔、クジラは、捕鯨によって人間に苦しめられて来たという話は聞かされている。なら、人間に対して嫌悪感を抱いていてもおかしくないはず。もしかしたら敵意を持っているかも知れない。

けれど、どうしても思えないんだ。
彼らはきっと私達の、人間の.....

ていうか、なんでこんな事で悩んでいるんだろう。クジラの事は身近には感じていたけど、そんな風に考えたことはない。気にしたこともなかったのに。
いったいどうしてだろう。

「いやー怖かった。マジすげー迫力だったよなー」

「ほんと、面白かったね」

映画を見終わった私たちは、映画館を出て、バス停へと向かっていた。そろそろ帰らないといけない時間なのだ。

「面白くなんかないよ。怖いだけじゃない」

「そこが良いんじゃんか」

「ねー。あのシーンとかすごく怖かったよねー」

「怖いののどこが良いのよ。しばらく夢に出てきそうだよ」

夢で思い出したけど、夏休みの初日に見た夢、あれは捕鯨に遭う夢だったんじゃないだろうか。夢の中に出て来てた船が、映画で見た捕鯨船と似ていた。そして映画みたいに攻撃してきた。

クジラは、あんな痛みや苦しみを受けていたのかな。
夢だから本当かどうかは知らないけど。

その後バス停に着いてからも三人で談笑していると、バスが一台やって来る。

私と二人とは帰る方向が違う。二人は今着いたバスで帰れるけど、私はこれでは家には帰れない。だからここでお分かれになる。私は二人がバスに乗っていくのを、手を振りながら見送った。 

これで一人、いや、一人と一匹になった。私とフラッチーはあれ以来、一言も話さずにいる。そのせいで気まずさを感じ、緊張で喉が渇いてきた。

ジュースでも買おうと思い、近くにあった自販機にコインを投入する。そしてどれを購入するかを考える。

そこでフラッチーが口を開いた。

〝ここで買わない方が良いよ〟

「他の所に行ってたらバス来ちゃうでしょ」
 確かに自販機よりもスーパーとかの方が安いけど。

〝でも、美味しくないよ、ここに売ってるのは〟

「まあ私もすっごくすき! っていうわけじゃーないけど。のど渇いてたら炭酸ジュースとか美味しいよ。いいじゃん、大丈夫だよ」 

〝大丈夫じゃないよ。うららの身体の中は、そのジュース飲んだ後大忙しだよ、疲れちゃうよ、きっと〟

「何を根拠にそんな事言ってるのよ。ていうか、さっきもそうだけど、なんでそんなに売ってるものを危ない物にしたいわけ?」
 少しイラっときて、口調が強くなってしまう。

〝そういうつもりじゃないんだ。それはうららの本当に欲しいものじゃないのに、うららが気付いてないから、けどフララは知ってる!フララ、嫌がるよ〟

「はぁ? 何言ってるの? 言ってることわかんない! フラッチーの言うこと、理解できない信じられない! そもそも、イルカの言うことなんて私にわかるわけないじゃないの〜」

そこで、私が待っていたバスが到着した。
とっとと買ってしまおう。でないと乗り遅れてしまう。

〝うらら!〟
けれど、私がボタンを押そうとすると、フラッチーが止めようとする。物理的に止められるわけじゃないけど、圧力を感じて手を止めてしまった。

「あーもう分かったよ。買わなきゃいいんでしょ」

面倒くさくなった私は、入れたお金を返却させた。そして不機嫌さを露わにしながら、バスに乗り込んだ。




イラスト byTaka

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