2015年1月21日水曜日

四楽章〜その3

このデパートは一階に食料品、二階から四階までが婦人用の服や化粧品で、その上に紳士服、書籍に雑貨など続いている。まあ、デパートの構造なんてどこも同じかな。

 まずは服を見に行くために、三階へと移動する。フラッチーもそれについて来ていたが、色んな物に気を取られ、あっちに行ったりこっちに行ったりと、ふらふらと彷徨っていた。フラッチーだけに、ふらふら。……はい、すいません。

目的の売り場に到着し、それぞれ良さそうな服を探しはじめる。私は特に欲しい物があったわけでもなく、売り場を見て回っていた。


「うららー。ちょっと来てー」


かんなに呼ばれ、私は彼女のもとに向かう。


「なになに? なんかいいのあったの?」


「これ、マジかわいくない? あとこれとかチョー良いじゃん」


かんなは何枚かのシャツを手に持っていた。
キラキラしたのとか、ロゴの入ったのとか。
今着てるのもそうだけど、とにかく派手だ。


「いいんじゃない、似合ってるし」


「そっかなー。ちょっと違う感じなんだよねー」


「どっちなのよ!? さっきいいって言ってなかった!?」


「あ、あっちのやつ良い!」


私の言葉を聞かず、さっさと別の所に行ってしまった。
ほんと、気が変わるのが早いなぁ。


〝せわしない子だね〟


「同感」


手持ち無沙汰になったので、私も良さそうな服がないかと、見て回ることにした。

しばらくそうやっていると、なんとなく気になる服を見つけた。クジラの写真がプリントされたTシャツだ。

最近クジラって言葉がよく出て来ていたから、気を惹き付けられたのかもしれない。別に高くもないし、買っちゃおうかな。


「フラッチー、これどう? 似合ってる?」


そのTシャツを体に合わせ、フラッチーに見せてアピールする。


〝駄目だね〟


即答された。


「え、駄目……。そ、そんなに似合ってないかなぁ」


フラッチーの予想外の反応に、思わず戸惑ってしまう。最初は茶化そうとして言ったんだと思ったけど、フラッチーの真剣な様子から、真面目に言っているのだと理解する。


〝そういう問題じゃないんだよ、これは。うらら...それ、身につけて気持ち悪くならない?今うららが着てるのもそうだけど、この辺の服、あたしだったら絶対着ない!〟


って、服着てるイルカなんて見たことないけど。


「全然気持ち悪くなったりしないよ。するわけないじゃない」


〝本当? だって、全然合ってないんだもん。こう、波がさぁ...ジグザグで...磁石が反発しあうみたいな感じ?なんだか、危険なにおいがするんだよ〟


「何よそれ。お店で売ってるのって、買う人、消費者の安全を考えて作られてるんだよ。だから安心安全なの!って、習ったの!学校でね。」


そう。小学生の時に社会の勉強で習った。
習うまでもなく当然の事だと思うけど。


〝本当に危なくないって思ってるの? これ、何から出来てるの?どうやって作ってるの?...うららは、ちゃんと知ってるの?〟


「まぁ、材料は記載されてるじゃん。cotton...綿だね、綿。それから、poly..?えっと、ポリエステルだね、これ!畑で綿作って工場でTシャツになって、ここで売られてるのよ〜常識よ〜そもそも危ない物なんて売らないでしょーに。」

ここは普通のデパートなんだから。
どうしてそんなこと言うんだろう。

〝やっぱり、そんな妙なルールに縛られているから、分からないんだね〟

 それは、どこか見下されてるような、諦められてるような感じがして、腹が立った。

「また、それ。フラッチーの言うルールってなんなのよ……!」

 鋭い視線で、フラッチーを睨みつけてしまう。
 と、その時、不意に後ろから声をかけられた。

「どうしたの、うららちゃん?」

「えっ?」

 驚いて振り返ると、香澄が怪訝そうな顔をして私を見ている。やばい。さっきの、聞かれてたかもしれない。なんとかごまかさないと。

「な、なんでもないでござるよ!」

 しまった! 緊張でつい忍者口調になってしまった! この前見たテレビのせいだ。これじゃ余計怪しまれたかもしれない。

「隠さなくったっていいんだよ、うららちゃん。テンション上がっちゃって抑えきれなくなっちゃったんだよね」

「だからなんでもな……え?」

「分かる、分かるよ! 近所の服屋さんにはこういうの全然売ってないし、取り扱いも雑だから、ここ来るとつい昂って来ちゃうんだよね! それで声を荒げてしまったんだよね!」

「あ、うん。そうだね」

 なんか誤解されてるけど、フラッチーの事はバレてなかったようだ。とりあえず一安心。

「あんたはもう少し自重しろっ」

 するとかんながやって来て、香澄に軽くチョップをいれていた。

「あいたっ! もう、叩かなくたっていいじゃない」

 香澄が反撃しようとするも、あっさりと躱されてしまっていた。そうやってじゃれ合ってる二人を見て、私は落ち着きを取り戻し、仲裁に入る。

「まあまあ、買うもの決まったんなら、会計行こうよ」

「そうだね。次の予定もあるし」

 香澄は手にいっぱいの衣類を持って、レジの方へ歩いていった。

「それ全部買うつもりかよ」

 そう言いながらかんなもついて行く。

 私は手に持ったままだったTシャツを元の位置に戻し、フラッチーの方をチラっと見た。フラッチーは何か言おうとしていたけど、話を続けたくなかった私は、その場を後に、二人について行った。


イラスト byTaka

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