2018年6月10日日曜日

11楽章 三浦

「ひがーしー、子猫山ー」

 昼下がりの静かな森の中、もふもふでボサボサな強面の人型キャットが倒木で囲まれた土俵の中へ入っていきます。

「っておい! 誰が子猫だ!」

 荒々しく怒鳴る彼は、気合十分というように全身の体毛を逆立てます。

「にーしー、熊田ノ里ー」

「……おい。本当にこんなんで出て来んのか?」

「大丈夫! 彼らはノリと勢いに弱いから! きっと」

 不審な目を向けてくるおじさんをスルー。

 もう一度、あの熊を呼び出します。

「にしー、魚盗熊之助ー」

「ぐおぁぁぁ!」

 突如、おじさんの対面からさっきの巨熊が飛び出してきました。両腕を広げ牙を剥き、気合十分、やる気満々です。

「お、おぅ。マジで来やがった」

 半ば呆れつつ、おじさんも四股を踏んで相手を威圧していきます。

「さぁー見合って見合ってー」

 熊と化け猫。両者が互いを睨み合い、一触即発の緊張感が森に広がっていきます。

「はっけよーい……のこった!」

 勢いよく飛び出したのはおじさんの方です。素早く相手の間合いに入り、そのずっしりとした腰を抱え込みます。

 しかし、さすがは熊。おじさんの攻撃をしっかりと受け止め、逆に相手を掴み上げようとします。その剛腕に抗えず、おじさん、ついに抱え上げられてしまいました。

「お、おい! ちょっと待て! おい!」

 悲痛の叫びが届くことはなく、熊はおじさんを抱えたまま後ろに反り返っていき、綺麗な子を描いて地面に打ち付けます。熊による見事なプロレス技。

 勢いよく叩きつけられたおじさんは完全に伸びて、情けないおじさんの姿に戻ってしまいます。

「……おじさん、よわい」

「う、うるせ」

 ブリッジの体勢からゆっくりと起き上がった熊は、誇らしげに腕を掲げてガッツポーズを決めます。

「えー……勝者! 狸之助ー!」

「たぬきじゃねぇ! 俺はアライグマだ!」

 さっきまで熊だった彼は、突然焦げ茶色の毛むくじゃらへと姿を変えてなにやら訴えて来ました。

「わっ! やっぱりたぬきだ!」

「違う! この縞模様をよく見ろ! たぬき風情にはないだ、ろ……う……」

 自分の状況を察した自称アライグマ。ゆっくりと後ずさります。

「ま、まぁ待て。帽子を取ったのは悪かった。返してやるからその、て、手を降ろしてだな、それから______」

「捕まえろー!」

 すぐさま逃げ出そうとするアライグマ。しかしその先には復活したおじさんが待ち構えていて、あえなく捕まってしまいました。

「いてっ、こら、尻尾を掴むな!」

 さっきの仕返しとばかりに、おじさんは暴れるアライグマの首根っこを掴んで押さえ込みます。

「さぁて、それじゃあ言い訳を聞かせてもらおうかな」

 にじり寄るあたしを見て、彼は体をびくぅっと震わせました。

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