〝何をそんなに怒ってるの?〟
「別に」
フラッチーがあんなこと言うからでしょ。どうして自覚ないのよ。
私の頭の中ではさっきのやりとりが繰り返される。そして余計に腹が立ってくる。どうして私の買い物の邪魔するのよ。
〝それにしてもすごかったね都会は。空気もよくなかったしさ〟
「……え、うん。まあね」
フラッチーがそうやって話しかけてきても、私は二言三言返すだけ。その後もフラッチーは色々話していたけど、鬱陶しくなった私は適当に相づちをうつだけだった。
〝すぅー、はぁー。こっちの空気の方が良いや。でもやっぱり一番は海だね!〟
バスから降りるなり、深呼吸をしてハイテンションでそう言うフラッチー。でも、今の私にはそれが腹立たしい。というより、フラッチーに苛立ちを感じる。どこかに行ってほしいと、そう思うようになっていた。でもあと少しで家に着くし、それまでの我慢だ。
そしてしばらく歩いた後、家までたどり着き、玄関の扉を開けた所で、顔をフラッチーの方へ向けた。
「じゃあねフラッチー」
〝え、何言ってるの?〟
「何って、もう帰るでしょ」
〝うん、だから帰って来たよ〟
……なんか話が噛み合ってない。
私の言う帰るを、この家に帰ると勘違いしてるのかもしれない。
「まさかまだ居るつもりなの?」
帰ってよ的な意味合いを含めて言ったが、フラッチーは至極当然な顔で〝そうだよ〟と答えるだけ。一緒に居たくない私にとっては、それは不愉快だった。
だから、ついカッとなって言ってしまう。
「どうしてよ! もう帰ってよ!」
〝そんなこと言われても、帰る所ないんだよね〟
「っ……! だったら」
そこでお母さんがやって来た。
「あんた、そんなとこでどうしたの?」
「な、何でもないよ。ただいま」
さっき話しかけていた言葉を引っ込め、なんとか普通を装う。
「そう。もうすぐ夕飯できるから準備しといて」
お母さんはそう言って台所の方へと戻って行った。それを見届けた後、私は口を開く。
「とにかく、もう家には来ないで」
いつまでもこうしているわけにもいかない。さっきみたいにまたお母さんが来て、不信に思われてしまう。だからとっととけりをつけよう。
ずっと玄関で扉を開けたまま立っていた私は、そこでようやく中に入り、荒々しく扉を閉めた。入ってくるな、と言うように。
* * *
目の前で扉が閉められた。これは拒絶の意だろう。あたし、うららに嫌われちゃったのかな? でも、壁をすりぬけられるから中に入れちゃうんだよね。そんなことしないけど。
それにしても、中々分かってもらえないなぁ。どうしてこうなっちゃったのかな、フララ……。
あたし達は周波数が見える。モノにある、色々な波が。自分だけじゃなくて、家族である他のイルカやクジラも。人だって、あの頃は……。
〝だめだめ、そんなネガティブになっちゃ!
あたしたちは一緒に変える…変わってゆくんだから。この世界と〟
イラスト byTaka
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