2017年9月23日土曜日

11楽章 に

   驚いているのも束の間、熊は突如現れた猫にその剛腕を振りかざした。

   まずい!

   あたしは猫を自分の元へ抱え寄せ、熊の一撃を回避する。鈍い音と共に、振り下ろされた手から伸びる鋭い爪が大地に深く突き刺さった。

「おお怖い。あんなのが当たったら大変だねー」

   なんて呑気なことを言っていると、今度はその巨体でこちらに突撃してきた。

   横に避けてやり過ごそうと思ったら、何故か左右にだけ木が密集していてすぐに入り込める所がない。これは、後ろに逃げるしか……。

   そう思って走り出した矢先。生い茂る枝葉をかき分けると、急に景色が切り替わった。

   思わず立ち止まったあたしは辺りを見渡した。田んぼ、畑。少し先に見覚えのある茂みが。後ろには森がある。熊はいない。外には来れないのかな?   

   なにはともあれ、あたしは森の入り口に戻ってきてしまった。

   いや、戻されたのかもしれない。逃げるふりをしてあたし達を誘導し、出口に近づいたところで熊に化けて追い払ったんだ。だって熊なんているわけないもん。

   そう考えると急に悔しさが込み上げてきた。

「むぅー悔しい!   してやられた!」

   こんな思いをしたのはイワシの大群を大きなシャチだと勘違いして追い回されたとき以来だ!

「おじさん!   おじさん!   起きておじさん!」

   抱えている猫を揺さぶりながらそう声をかける。猫はうっすらと目を開けると、やがて意識を取り戻したのかさっと翻ってあたしの手から飛び降りた。そのまま逃げ出そうとする猫に、あたしはまた声をかける。

「ねぇ、あなた化け猫なんでしょ?」

   猫は、ぴたっと立ち止まる。

「今度はあたし達が化け返してあげようよ!   だって、やられっぱなしは嫌でしょ?」

   そう言うと、しばらく固まったままでいた猫が、少しづつ大きくなっていくように見えた。やがて毛が逆立ち始め、筋肉が隆起し、ついには2メートルくらいの大きな獣人へと姿を変えてしまった。

「お、おじさん?」

   不安げに声をかけると、その獣人はゆっくりとこちらへ振り返り、そして吠えた。凍てつくような鋭い眼光に、骨すらも簡単に砕けてしまいそうな牙。そのあまりの迫力に、あたしは思わず後ずさってしまった。

   野生の勘が言っている。こいつはやばい。

   なんなら逃げた方がいいんじゃないか?   そう思って足をずらした瞬間、ボンっと獣人から煙が上がった。やがて現れたのは、さっきまでのおじさんだった。

   そして、おじさんはニヒルな笑みを浮かべて言う。

「こんな感じでどうだ?」

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