2014年9月17日水曜日

一楽章〜その5


とりあえず、私は部屋に戻った。


けど・・・ヒマだな。
だからといって、宿題なんてやる気出ないし。

クジラの歌、聞けたらなぁ。
暇つぶしにいいかもしれないのに。
もう、お母さんったら。

なんか、気分がまたげんなりしてきた。

暑いし。


・・・・・


アイスでも食べようっと。


寝そべっていたベッドから起き上がり、部屋のドアへ行こうとしたら、床に置いてあった通学カバンにけつまずいた。


「いたっっっ!」


カバンと私は一緒にひっくり返った。


「もう〜なんでこんな床の真ん中にカバン置いてるの〜」


独りグチりながら、飛び出た教科書や
ノートやえんぴつをひろう。


ふと、ある本に気がついた。


キレイな海とクジラの絵の表紙。

夏休みの読書感想文のための課題図書だった。


「ひえ〜またクジラだ。」


今朝の夢から、朝の散歩から、
ずっとクジラ。

拾って、その本のページをパラパラめくり、
少し、読み始めた。

ふんふん、イラストもクジラだよ。


・・・・・・


「ご飯、食べないの〜?いいかげんに降りて来なさーい!」


お母さんの声で、我に返った。

気がつくと、部屋の中は薄暗く・・・
時計は夜の七時半を指していた。

読み始めるにつれて物語にひきこまれていった私は、ページをめくる手が止まらなくなり、そのまま時が経つのを忘れて、最後まで本を読み続けてしまったのだった。

なんだか、本を読んでいた間、
まるで夢を見ているようだったけど・・・

とにかく、読破しちゃった。

創作なのか、ホントの話しなのか、よくわからなかったけどクジラと人の物語。課題図書の割には面白かったじゃん。


慌ててキッチンに降りてゆくと、
美味しそうなカレーの匂い。


「昼ご飯にも降りてこなかったし、夕食も食べないつもり?あんたいったい何してたの?」


「あ、いやー・・・本読んでたらいつの間にかこんな時間になってて・・・」


「まったく〜早く食べなさい!」


サラダとカレーライス。

これも、家の良くあるメニュー。
カレーは美味しいし、いっぱい食べられるからいいね。

”いただきます”をして、二人で食べ始めた。


「そういえばあんた、朝、何か言おうとしてなかった?」


カレーを頰張っていると、お母さんが聞いて来た。


「朝?なにかあったっけ??」


今朝、私は、夏休みなのに間違えて朝早く起きちゃってせっかくだから散歩に行って海辺の丘で変な男の人に会ってカセットテープ・・・


「そうそう!カセットテープ!!」


その使い方を聞こうとしてたんだ。
もらってポケットに入れておいたはず。


「お母さん、これどうやって使うの?」


「あら、カセットテープ。どうしたのこれ?」


「え、えっと・・・友達がくれたんだよ。でも使い方が分からなくて。お母さんなら知ってるかなって思って。」


「ふ〜ん。今時珍しいわね。」


お母さんはテープを手に取ってながめていた。


「確か物置にラジカセがあったっけ。それで聞けるわよ。」


食事を終えた私達は、物置と化してしまった二階の一室へと向かった。


「この中にあるはずよ。」


そう言ってお母さんは部屋の扉を開け、いろんなものが詰め込まれた部屋の中に入っていった。

まるで、ガラクタの倉庫じゃん。

こんな中によく入ってゆけるな〜と、あきれつつ、
私は部屋の入り口で待っていた。

ほんの数分後、何かの機械を抱えてお母さんが部屋から出て来た。


「あった、あったわ〜。はい、これを使えばカセットテープで音楽が聞けるわよ!」


「あ、ありがと」


ほこりをかぶったその機会をお母さんから渡され、そして、使い方を教わってラジカセを自分の部屋へ持って行った。

えっと、この真ん中の口みたいなところにテープを入れるんだっけ。で、再生ボタンを押して、っと。


しばらくノイズが鳴ったあと、波の音に混じって、なにかの鳴き声のような音が聞こえて来た。


これ、クジラの鳴き声なのかな。

怪獣みたいな声だけど。

こんな鳴き声なの?クジラって。


なぜかそれを聞いていると、
だんだんとねむたくなってくる。

眠気を払い、聞こうとしているのに・・・っていうか、集中してちゃんと聞こうとすればするほど、ねむたくなり・・・

私はそのまま、ねむってしまった。



イラスト by Chii

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