2017年8月9日水曜日

11楽章〜裏

「おい!  奥の方に逃げていくぞ!」

    おじさんの声でハッとなったあたしは、狸の後ろ姿を目で追う。どうやら何かを咥えているようだけど……。

「あっ! しまった! 帽子を、イワシを盗られてる!」

「てめっ! 俺には指一本触れさせなかったくせに……まあいい、早く追いかけるぞ」

    ちょこまかと逃げ回る狸を、あたし達は全力で追いかけていく。

「あはは、たのしーい」

「呑気なこと言ってる場合か!」

「あたしのイワシをかえせー」

「違う! 俺のイワシだ!」

    そんなこんなでなんとか追うことは出来ているけど、森の中では体の小さい狸の方が有利なもので、

「あっ、また隠れられちゃった」

「またかよ! くそっ!」

「でも逃げる音がしないからまだ近くにいるはずだよ」

    そうやって逃げ隠れする狸を、見つけては追いかけ、見つけては追いかけてと繰り返していた。

「ああもう鬱陶しい!」

    隠れた狸を探していると、おじさんが荒々しく木や草を揺さぶり始めた。

「ダメだよおじさん、そんなことしたら」

「だって、面倒くせぇじゃねぇか」

「だからって、葉っぱや虫たちがかわいそうだよ。それに蜂の巣があったらたいへ……ん…………」

「な、何だよ急に黙りやがってよ?」

    訝しげにあたしを見るおじさんの後ろを、あたしは指差した。

「……熊」

「あ⁉︎ 誰が熊だってんだ!」

「そうじゃなくて、おじさんの後ろ」

「何だよ」と振り返ったおじさんの前に、2メートルをゆうに越える立派な熊が立っている。

「お、おう。何だ、どうした?」

    おじさんは若干震えた声で、そびえ立つ熊に声をかけた。

    熊はたくましい両腕を広げ、鋭く尖った牙を剥き出しにして唸り声をあげる。

「おおお! すごい迫力だね、おじさん! ……あれ? おじさん?」

    声をかけても反応がないので近づいていくと、突然おじさんがふらーっと倒れ始めた。

「おじさん⁉︎」

    慌てて駆け寄ったあたしの目の前で、どういうことかおじさんからポンっと白煙があがった。

    やがて煙が晴れると、あたしの目の前にはなんとひっくり返った1匹の猫が⁉︎





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