まだ夜の明けきらない早朝だった。
浜辺に明けの明星が光っていたのを覚えている。
村の人たちの騒ぐ声が聞こえた。
一体何があったんだろう...
目ボケまなこで、パジャマのままに私は家の外へ出て行った。
玄関を出て、崖の上から浜辺を見て驚いた。
大きなクジラが横たわっていた。
その周りを、村の男の人たちが取り囲み、みんな騒いでいた。
クジラは、動かず...
どうやら息絶えている様子だった。
「迷子になったんじゃよ」
ふと、後ろから声がして振り返ると、おばあちゃんが居た。
不思議なことに、おばあちゃんは全身びしょ濡れで、そこに立って居た。
そう。肩に海藻がかかり、まるで、海から上がってきたかのようにおばあちゃんは、潮に濡れていた。
「海の中で、迷子になってしまったんじゃよ。クジラ達には、音波が標べなのに...彼らの音楽が他の騒音に紛れてしまってるんじゃ。それで迷子になって家族と離れ、道を見失って浜に打ち上げられてしまったんじゃ。かわいそうにのう。」
そう言って、おばあちゃんはくるりと後ろを向いて、私と逆に家の中に入っていってしまった。
私は、もっと近くでクジラを見ようと浜へ降りて行った。
村人たちが、あぶないから近寄っちゃいけない!と、言いながら、私と同じように集まってクジラを見にきた人々に、注意していた。
そして、村中の人々が見守る中、クジラの解体を始めようとしていた。
村の長老で、古参の漁師さんが古めかしいおまつりの時にしか着ないような衣をつけ、手にはなにか木の棒にふさふさしたものが着いたのをもち、お祈りの唄を唄い始めた。
村の神社の神主さんが、白衣を着て慌てて浜へやって来た。
まだ若い漁師の人たちが、解体道具を持って集まってきた。
クジラの解体をまだ一度も見たことのなかった私は、なんだかとても怖くなって...一歩づつ、一歩づつ...後ろへ後ずさって行った。
そのとき、なにかに蹴躓いて、私は転んでしまった。
その、蹴つまずいたなにか...
それは、それは.....
小さなクジラだった。
転んだ私に、心配そうにその子は声をかけてくれた。
”ゴメン!ダイジョウブ?”
その小さなクジラの体は、青く透きとおっていた。
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