2017年4月11日火曜日

十楽章〜その四



うららさんが.....

うららさんに化けたイルカの精霊?のようなフラッチーさんと別れの挨拶をし、そしてフラッチーさんであるうららさんを見送りながら、彼女がすこし寂しそうな顔をしているのを、私は眺めていた。

この世界は、いろんなことが起こるんだな。
本当に。いろんなことが。

浜辺に打ち上げられて死んでしまったイルカは精霊になって(お化けになって?)、誰かのそばにあらわれて...

そんな話、普通じゃ信じてもらえない。
きっと、作り話だと思われる。
あるいは、頭がおかしいんじゃないか、と。

私も、あの体験が無かったら、
きっと簡単には信じられなかっただろうと思う。

"フラッチー"さんと、うららさんが呼んでいたイルカの精霊さん。
きっとあのイルカさんは、うららさんのことを助けているんだ。

助けて、うん、もしくは...

なにかお手伝いをしているのかもしれない。

けれど、もしかすると。

うららさんが、フラッチーさんのお手伝いをしているのかな。


私は、うららさんからフラッチーさんの存在を聞かされたとき、とても驚いた。

そう、驚いたことは驚いた。

けれどたぶん、その理由をうららさんは勘違いしている。

普通で考えたら非常識な現象だもの。

人は簡単には信じられないに違い無いだろうから...
だから、だからカホラちゃんは驚いたんだ...って。

そう思っているに、ちがいない。

私も、あまりに驚いてなんにも言えなかった。

けれど、私が驚いた理由。
驚いた、本当の理由。

それは、あの時とよく似ていることが起こったから。

あの時.....私がまだ小さな頃。

浜辺で打ち上げられて、息絶えたクジラのこと。

そして、そのクジラが不思議な存在となって、
私とおばあさんの前にあらわれた、あの時のこと。



それは、そんなに昔でもなく。
そして、そのクジラの精霊と共にいたのは、
それほど長い間のことでは無かった。

けれど、私は今でもよく覚えている。

あのクジラは、私のおばあさんのように年老いたクジラだった。
あのクジラの精霊が、おばあさんと話しているときは、まるで仲のいい友達同士を見ているようだった。

私達の暮らしているこの北の半島の岬には、毎年、初夏になるとクジラがやってきていた。今では見かけることも少なくなったけれど、昔はたくさん来ていたらしい。

村ではクジラの漁が行われていたし。
近所の大人の人たちが、夏のおまつりで、
面白いクジラの踊りを踊って伝えていた。

いつから、あの踊り...見られなくなったっけ。
十年前くらいからかな。

あぁ、そうだ。

ちょうど、あのクジラの精霊があらわれた頃のことだ。





                     Art by Chii & Ema




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