「うららさーん、お便りが来てますよー」
翌朝、そう言ってカホラちゃんが一通の封筒を渡してくれた。お母さんが送ってくれた、帰りの交通費だ。
「ありがとう。結構早く届くんだねー」
南から北までだから、一週間くらいかかるんじゃない? って思ってたよ。
「ということは、今日でもうお別れなんでしょうか」
そう言って、カホラちゃんは寂しそうな顔を見せる。
そういえば、カホラちゃん達にはまだ言ってないんだった。でも、どうだろう。帰らないってことは伝えた方がいいと思うけど、フラッチーのことは言わない方がいいのかな?
いきなり「フラッチーが人に化ける」なんて言ってもねぇ。
しかし、私の考えなどなんのその。ドカンと一発かましてくるのがフラッチーである。
「じゃじゃーん!」と言いながら突如現れる、もう一人の私。
「「わっ!」」
二人は悲鳴を上げて驚いた。
「ちょっ、いきなり変身しないでよ!」
私はまだいいとしても、カホラちゃんからしたらちょっとしたホラーだよ!
「……あっ」
ふと我に返った私は、そんなカホラちゃんの様子が気になって彼女に目を向けた。
「う、うららさんが、二人も」
驚きと恐怖の入り混じった声で、カホラちゃんが言う。まるで怯えた小動物を見てるようで、申し訳なく感じながらもちょっと可愛いなと思ってしまう。
「ごめんね。バカなフラッチーで」
「バカとはなんだ!」
「そのまんまよ。とりあえず黙ってて」
そう言って素直に黙るような子じゃないけど、まあいいや、ほっとこう。
「えっと、何から話そうかな」
私はカホラちゃんをなだめつつ、フラッチーの事など諸々の説明を始めた。
フラッチーとの出会い、彼女がどうゆう存在なのか。
ついでに、ジープさんが教えてくれたことも話してみた。
奇天烈な話ばかりだけど、カホラちゃんとても熱心に聞いてくれている。
「ということは、うららさんは、イルカが打ち上げられた浜でフラッチーさんと出会ったということですよね?」
「うん」
「そうですか……やっぱり」
そう呟いたカホラちゃんは、何かを考えているように見える。
と思ったら、今度は納得したように小さく頷いた。
「それで、フラッチーさんがうららさんになって、うららさんの代わりにお家へ帰る、ということですね?」
「うん! そう! そういうこと!」
よかった、ちゃんと説明できてたみたい。
カホラちゃん、全然疑おうとしないし、ほんと素直だなぁ。
「でも、大丈夫でしょうか。いけないことをしているような気がして、私心配なのですが」
「「大丈夫だよ!」」
不意に私とフラッチーの声が重なった。
それを見たカホラちゃんは笑みをこぼしながら言う。
「フフ、そうですね」
飛行機のチケットは既にお父さんが取ってくれていた。でも、日付が今日になってる。というか、もうそろそろ出発の準備しないとまた乗り遅れてしまうかもしれない。ということで私は部屋に戻り、フラッチーに持って帰ってもらう物を鞄に詰め込んだ。そして、その荷物をフラッチーへ託した。
これで、しばらくの間お別れになる。
「はい。それじゃあ任せたよ」
「うむ。任された!」
「ちゃんと私を演じるんだよ。変なことしたらダメだからね」
「大丈夫大丈夫!」
「それと、他には、えっとぉ.....」
「大丈夫だって! あたしが上手くやっとくから、うららは安心して自分の道を進んでよ!」
ここにきて不安になってきた私だけど、そう言ったフラッチーを見て少し気が楽になった。
「それじゃ、先に帰ってるね」
私の姿をしたフラッチーは、そう言って踵を返した。
こうしていざ別れるとなると、やっぱり寂しくなるんだなぁ。遠のいていくフラッチーの後ろ姿を眺めながら、そんなことを思う私であった。
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