うん、わたし、うらら。
あんまり連絡しないでごめんなさい。
え?元気だよ、カゼなんてひいてないよ。
ちゃんと野菜も食べてるってば〜
こっちのかぼちゃ、すっごく美味しいから、さ。うん、甘いの〜ほくほくして〜
って、そんなことはいいから。
あ、あのね、私ね...
まだしばらく家に帰れない。」
『;:#=:][,*!-|/@~¥='%^!!!!!』
電話越しに聞くおかあさんの怒声、なつかしい。
電話を耳から遠ざけながら、予想通りの「なにいってるの!早く帰って来なさーい!!!」という母のセリフをクールに聞き流し、私は前もって考えて用意しておいた”ここから帰れない理由”を、演技力たっぷりに話した。
「あのね、ここで出会って今お世話になっている女の子がさぁ...ウツなんだよ。誰とも打ち解けて話せないんだって。だけどさ、私にはとっても親しくしてくれて。うん、もう昔からの友だちみたいにさぁ。それで、夏休みが終わるまで『どうかここに一緒に居てもらえないか』ってその子の家族の人たちに頼まれて......それでさ、嫌って断れないんだ。」
他人のことにすぐちょっかいかけたがる...じゃなくて、面倒見のいいおかあさんなら、こういう理由で「ダメ」とは言わないはず。
私が話し終わると、受話器の向こうでしばし沈黙する母。
しめしめ。やっぱりダメって言えないよね〜
ところが、沈黙の後に帰ってきた返事は...
「ねぇ、うらら...」
はい!お母さん、わかってくれてありがとう!
「作り話でお母さんを騙そうったって無理だからねっ!ごちゃごちゃ言ってないで早く帰って来なさーい!! 宿題山ほど残してるくせに!!!』
ううぅぅぅぅぅぅ。
さすが、お母さん。
なんでわかっちゃったの?
『あんた、嘘つく時はね、話し方にいつもより抑揚が出るのよ!声に「だましてまーす」って周波数のっちゃってるんだからっ』
ひえぇぇぇ〜フラッチー並みの読みの深さ。
って、感心してる場合じゃない。
「と、とにかくねぇ〜お母さん〜」
甘えてみる。
『帰ってきーなーさーーーい!!!!!』
打つ手なし。
はぁ〜っと、ため息をついて電話を切った。
するとフラッチーが隣で、抑えていた笑いを吹き出して言った。
”おっかし〜い!うららのお母さんって面白い〜”
はいはい。側から見てたら面白いでしょうよ。
なによ。私を助ける気、ないの?
”うーん。助ける、ねぇ...いいアイディアがあるよ”
フラッチーは、いたずらっぽく私を見た。
ちょっと嫌な予感。
”うららのために、一肌脱ぐか!”
「一肌脱ぐ」なんて、人間くさい言葉、よく知ってるね、このイルカ霊ってば。
嫌な予感を振り払えないまま、私は彼女に聞いた。
「どうやって助けてくれるつもり?」
ふくれっ面をした私に顔を近づけてフラッチーは言った。
”私がうららになってさ、お家に帰ってあげるよ”
art by Chii & Ema
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