「お、お婆さん!? どうしてここに?」
やけに慌てた様子のカホラちゃん。
なにか、後ろめたさのようなものを感じた。
なにか、後ろめたさのようなものを感じた。
「そろそろ思い出すじゃろうと思うての。様子見に来たんだべ」
何のことかとカホラちゃんは首を傾げた。
忘れ物でもしていたのかな、と、考えているようだ。
忘れ物でもしていたのかな、と、考えているようだ。
「いのちのしま、ですよね」
私には、思い当たることがあった。
今朝のことといい、このタイミングの良さといい、何かしらお婆さんが関係してるんだと思う。
今朝のことといい、このタイミングの良さといい、何かしらお婆さんが関係してるんだと思う。
「そうさ。さっきの唄はうららちゃんだべ?」
「……はい」
聞かれてたと思うと、ちょっと恥ずかしいな。
「ちょっと待って! お婆さんもこの唄を知ってるの?」
疑惑と期待が混ざったような声音で、カホラちゃんは問う。
「ああ、知っとるよ。ここでよく踊ってることも」
その言葉を聞いた途端、カホラちゃんの顔は驚愕に満ち溢れていった。どうしてそんな反応をするんだろう。そんなにショックだったのかな。
「別に隠すことないべさ」
「でも、お母さんが……」
「そんな昔のこと、まだ気にしてたのかい」
話についていけない私は、二人の会話から状況を整理する。
カホラちゃんは「いのちのしま」をお婆さんに内緒にしている。それには何か事情がありそうで、そこにカホラちゃんのお母さんも絡んでるってことかな?
「ねぇ、どうして内緒にしてたの?」
「それは……」
口を開いたと思うと、すぐに閉じてしまった。あまり言いたいことじゃないのかな。聞かないほうがよかったかも。
「話してあげたらどうだべ?」
お婆さんが言う。するとカホラちゃんは、「……分かりました」と了承してくれた。
「昔から、そう。私が物心つく頃から....いいえ、もしかしたら生まれたときからずっと、ある歌と踊りが私の中にありました。」
心の記憶を辿るように、目を瞑りながらかホラちゃんは話し始めた。
「その歌は、どこかで聞いたりした記憶はないのに、鮮明に、脳裏に焼き付いているのです」
心の記憶を辿るように、目を瞑りながらかホラちゃんは話し始めた。
「その歌は、どこかで聞いたりした記憶はないのに、鮮明に、脳裏に焼き付いているのです」
あれ、なんか似てるかも。
いのちのしま。
この歌。私もさっき思い出したはずなのに、ずっと前から知ってる気がするし。
いのちのしま。
この歌。私もさっき思い出したはずなのに、ずっと前から知ってる気がするし。
「これはフラダンスだと、最初にうららさんに言いましたよね。でも、本当は違うのです」
「え?」
「似てはいるけど、少し違うんです。フラだけじゃなくて、もっと色んなものが一つになったような...ううん、いろんなものが分かれてゆく前のような...そんな踊りなのです。これは、私がそう感じてるだけなんだけど」
カホラちゃんは、少し自信なさげにそう一言付け足した。
「いや。それであってるべ」
不意に、おばあさんが言葉を発した。
「やっぱり、お婆さんも知って……!」
「まあ落ち着きなさい、カホラ。その話は後でするべさ」
お婆さんに制止され、カホラちゃんは渋々元の話に戻った。
「母がフラをやっているということは、話ましたよね」
「うん」
カホラちゃんの名前の由来のときに聞いた話だ。
「私も、小さい時から母にフラを教わっていました。舞台の上に立てるようにと。」
へえ〜そうなんだね。だから彼女、とってもキレイに踊れるんだ。なんか、身のこなしが違うと思ったんだよね。
「だから、母は結構厳しかったのですが、私が踊るといつもあの歌...『いのちのしま』の持っているフラのような、フラではないような...あの大きな感覚が踊りに出てきてしまうのです。それが母の教えようとしているフラとは違っていたから、よく怒られていました」
「あんなに綺麗なのに?」
「それはフラじゃないって、お母さんは言いました。だから私は、母の伝えるフラを踊れるように、それを抑えようとしました。でも、そんな風に毎日練習していると、無性に『いのちのしま』を踊りたい時があって.....だからその時は、人目につかないところで踊るようにしていたのです」
カホラちゃんは悲しげな表情を見せる。
「じゃあ、船のときも?」
「はい」
なるほど。そうやってお母さんに応えようとしていたんだね。なんだ〜怒られるが嫌で。思ってたより単純じゃない。それほどお母さんの指導が厳しかったのか、カホラちゃんが気にしすぎてるのか。なんとなく、後者な気がするけど。
「カホラは思い込みが強いからねぇ。お母さんの教えた通りに踊れないこと...それが悪いことだって思ってるんだべさ」
「でも……って、お婆さんに話したことはないはずなのに、どうして知ってるの!?」
「知ってるもなにも、ずっと待っておったんじゃがのう」
お婆さんの言葉に、カホラちゃんは呆然としていた。訳が分からないといった様子だ。
そして、全てを見透かすようなお婆さんのその瞳。私が初対面したときを彷彿とさせる、その瞳だ。
「どこまで、知ってるの?」
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