〝これを越えた先に、うららの部屋が!〟
昼ご飯を食べ終え、自室に向かって階段を上っている時に、フラッチーが話しかけてきた。さっきまで話しかけてこなかったのは、お母さんが居たからかな。配慮してくれたんだよね。
「そんなに期待されてもなぁ」
なんか緊張する...と思いつつ、部屋の扉を開けた。
〝お、結構綺麗だね。人の住む所は色んな物が散らかってるって聞いてたけど〟
「そんな風に思われてたんだ……っていうか誰から聞いたのよ,そんなこと」
〝あ、あれベッドだよね!ふかふかのやつ。
これは、服がいっぱい入ってるから箪笥だね!〟
「って、聞いてないし」
部屋に入るなり、あちこちを行ったり来たりして中を見回していた。楽しそうで何よりだ。彼女が楽しそうにしていると、なんだか自分も楽しくなってくる。
〝ん?このカセットテープって〟
私がベッドに腰掛けフラッチーの様子を見ていると、机の上に置いてあったカセットテープを見つけた彼女が、そう呟いた。
「あ、それね、昨日この近くの浜辺で、なんか変なおじさんに渡されたんだ」
〝変な、おじさん……〟
何かを考えるような仕草をしながら、フラッチーが呟いていた。もしかしたら、何か知っているんだろうか。
〝それって、どんな感じの人だった?〟
「うーんと……なんかぼろい服着てて、大きなリュック背負ってる、髭の生えたおじさんだよ。私にこのカセットテープを渡した後、海の中に消えていったんだ」
〝海の中に?〟
「そうだよ! びっくりでしょ!?」
そういえば、その後泳いでいった、多分、イルカだと思うけど、それとは何か関係があったんだろうか。まさかあのおじさんが。いや、そんなことあるわけないよね。
〝なるほど、やはりそうだったのか……!
ふっふっふ。うらら君、謎は全て解けたよ〟
「え、何? その探偵みたいなノリは。って、何か知ってるの? そのおじさんについて」
〝当然だよ。彼は仲間だから〟
「仲間? それってどういうこと? まさかそのおじさんが、イルカだったりなんかしないよね?」
〝そだよ。イルカだよ〟
「え〜〜〜そんな!まさか.....やっぱり?」
〝そう。で、彼はああやってカセットテープ、クジラの唄を渡して回ってるんだよ〟
つまり、色んな人にそれを渡してるってことか。でも、なんのためにそんな事をしているんだろう?
「いや、ちょっと待って。イルカが人になるなんて、ありえないじゃない」
〝そんなつまらない常識に縛られているから、信じられないんだろうね〟
つまらない、常識? 私の常識が、つまらないって?
〝でも、うららは見たんでしょ? 人が、海に消えていくのを。自分が見た物を、ありえないからって否定するのは、どうかと思うよ。それに、あたしの存在だって、君たちの常識ではありえないでしょ〟
「それは……確かに、フラッチーの言う通りだね。……うん、こんな変なのがいるくらいだし、イルカが人になったりすることもあるよね」
〝へ、変なのとは失礼なっ!〟
「ふふっ」
なんだか可笑しくなってきて、私はつい笑みをこぼしてしまった。
〝あはは、本当面白いなぁ、うららは〟
そうやって二人して笑い合っていると、ケータイから、メールの着信音が鳴り響いた。
それは、友達からの、遊びの誘いのメールだった。
イラスト byTaka
0 件のコメント:
コメントを投稿