2014年9月10日水曜日

一楽章〜その4


クジラの歌を聞くために、私は家に帰った。



部屋にもどって、あの男の人がくれた、
巻物のような、古いのか新しいのか・・・

よくわからない、そのカセットテープを
ポケットから取り出した。



これ・・・



一体、どうやって使うんだろ?



今になって使い方を聞いてなかったことに気付いた。

はぁ、あいかわらず肝心なところが抜けてるなぁ。

どうしようかな、これ。


しばらくうんうんうなっていると、ぐぅとお腹が鳴った。


そういえば朝から何も食べていないんだった。
腹が減っては何とやらと言うし、ね。

とりあえずご飯食べよっと。


カセットテープをポケットに入れて居間へと向かった。

テーブルにはすでに朝食の用意がされていて、お母さんがソファでコーヒーを飲みながらくつろいでいた。

今日はご飯に卵焼きにワカメのみそ汁。
家ではよくあるメニュー。

”いただきます”言ってからみそ汁を一口飲む。

うん、美味しい。
さすがお母さんだね。

夏休みだから急いで食べなくていいし、この天国のような、一日の予定が何も無い・・・という気ままな幸せ。

ずっと夏休みだったらいいのにな。


そんなことを思いながら、ご飯を食べ終わり、
食器を片付け、お茶を入れてソファに座った。


ポケットからカセットテープを出して、ながめてみた。


そういえば、昔の人はこれで音楽を聴いてたって、
あの人、そう言ってたよね。

昔って、どのくらい昔?
10年、20年前くらいかな。

お母さんならこれの使い方が分かるかも。

そう思って、となりに座ってテレビを見ているお母さんに声をかけた。


「ねぇ、お母さん」


「ちょっと待って。あと5分で終わるから」


「・・・・・・」


邪魔するなというオーラがただよっている。
思わず無言になってしまった。

ちなみにお母さんが見てるのは、日曜日以外の朝やっている15分のドラマ。今は何を言っても聞いてくれないと思い、しばらく待つことにした。


「お母さん」


「洗濯を済ませてからね」


そう言って部屋から出ていった。


もう、早く聞きたいのに。

ちょっとイライラしながらお母さんがもどってくるのを待つ。


しばらくすると、掃除機を持ったお母さんが部屋にもどってきた。ここで掃除をはじめられたらまた待たないといけない。


「ちょっとお母さん・・・」


「何?今忙しいから後にして」


さすがに頭にきた。


「さっきからそればっかじゃん!」


「私はあんたと違ってすることがたくさんあるの。
ひまなんだったら宿題でもしてきなさい!」


そう言われてリビングから追い出されてしまった。



まあ、別に今すぐ聞く必要もないか。


イライラしててもしょうがないし。

きっと、すぐに聞くことが出来る。

クジラの歌か。

夏休みの自由課題にちょうどいいかもね。


クールで楽観的になった私は、
自分の部屋にもどることにした。




イラスト by Chii

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