「なんですか?それ」
そう尋ねると、男の人は少し驚いたような表情をして、答えてくれた。
「そうか。最近の若い子はカセットテープを知らないのか。 まぁ、簡単に言うと、昔のCDみたいなもの、かな。これに色々な音を吹き込めるんだ。誰でも簡単に、ね。 」
ふーん。
インスタント録音テープか。
これが、CDみたいに音が鳴るの?
なんだか安っぽーい。
レコードは見たことあるけれど・・・レコードより安っぽい、というか、原始的。
「 これでよく音楽を聞いていたんだよ」
「昔のCD・・・ですか」
「まぁそんなところさ。
これ、CDより壊れやすいし、中のテープがちぎれたらちゃんと聞けなくなるから、注意して。」
そう言ってカセットテープを私に差し出した。
「 この中にクジラの歌が入ってるんだ」
「これ、もらってもいいんですか?」
「もちろん。」
知らない人からものをもらうって、
どうなんだろう。
と思いつつ、私はそれを受け取った。
あ、中でテープが巻かれてる。
だからカセットテープって言うのかな。
「君は、これを聞いてどう感じるだろう。ただの鳴き声だと思うだろうか。それとも、彼らの言葉を理解出来るだろうか。」
男の人は、少し真剣な顔をしてそう言った。
かと思うと、また子供っぽく笑いながら、
「クジラはね、人間に伝えようとしてるんだよ。
自分達が持ってる記憶をね。」
そう言って男の人は海に向かって歩き出した。
「 ぼくはその手伝いをしているんだ 。」
何しに行くんだろうと見ていると、そのまま海の中に入っていき、その姿を消した。
「え?」
消えた?
いや、そんなこと。
もしかしたらおぼれたのかもしれない!
ど、どうしよう!
私が慌てていると、何かが海面を飛び跳ね、
そのまま沖の方へと泳いでいった。
それを見て私は冷静になった。
もしかしたらあの人は・・・
一つだけ、クジラの記憶という言葉が、
私の中で何かひっかかっていた。
イラスト by Chii
0 件のコメント:
コメントを投稿