2014年9月3日水曜日

一楽章〜その3


「なんですか?それ」


そう尋ねると、男の人は少し驚いたような表情をして、答えてくれた。


「そうか。最近の若い子はカセットテープを知らないのか。 まぁ、簡単に言うと、昔のCDみたいなもの、かな。これに色々な音を吹き込めるんだ。誰でも簡単に、ね。 」

ふーん。 

インスタント録音テープか。 
これが、CDみたいに音が鳴るの? 
なんだか安っぽーい。 
レコードは見たことあるけれど・・・レコードより安っぽい、というか、原始的。  

 これでよく音楽を聞いていたんだよ」


「昔のCD・・・ですか」


「まぁそんなところさ。 
これ、CDより壊れやすいし、中のテープがちぎれたらちゃんと聞けなくなるから、注意して。」


そう言ってカセットテープを私に差し出した。


「 この中にクジラの歌が入ってるんだ」

「これ、もらってもいいんですか?」


「もちろん。」


知らない人からものをもらうって、 
どうなんだろう。 

と思いつつ、私はそれを受け取った。


あ、中でテープが巻かれてる。 
だからカセットテープって言うのかな。


「君は、これを聞いてどう感じるだろう。ただの鳴き声だと思うだろうか。それとも、彼らの言葉を理解出来るだろうか。」


男の人は、少し真剣な顔をしてそう言った。 
かと思うと、また子供っぽく笑いながら、 
「クジラはね、人間に伝えようとしてるんだよ。 
自分達が持ってる記憶をね。」


そう言って男の人は海に向かって歩き出した。


「 ぼくはその手伝いをしているんだ 。」


何しに行くんだろうと見ていると、
 のまま海の中に入っていき、その姿を消した。



「え?」


消えた?


いや、そんなこと。 
もしかしたらおぼれたのかもしれない! 
ど、どうしよう!


私が慌てていると、何かが海面を飛び跳ね、 
そのまま沖の方へと泳いでいった。


それを見て私は冷静になった。


もしかしたらあの人は・・・


一つだけ、クジラの記憶という言葉が、 
私の中で何かひっかかっていた。





イラスト by Chii

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