いのちのしま〜序章
広大な海、太平洋。
かつて、そこにはひとつの大きな島があった。
その島には、様々な生き物が暮らしていた。
山には沢山の動物たちが、海には色とりどりの魚が、
そして、島のいたるところに草花が生い茂っていた。
人々もまたその島に暮らしていた。
いのちあふれるこの島で、人々は何不自由なく。
すべての生き物たちと共に生きていた。
ぼくたちクジラは、古えの記憶を持っている。
ぼくたちが産まれる前からのクジラの祖先達の記憶・・・
そのすべての記憶を産まれた時から持っているのだ。
そうやってぼくたちはすべての出来事をうけついできた。
言葉ではなく、記憶で。
そしてぼくたちは、それを人々へも伝えようとしている。
ぼくたちの家族である、この地球に暮らす人々へ。
昔、一人の女性と一匹のクジラが恋をして、
人とクジラのこどもが産まれた。
その時から、人とクジラは同じ血を分けた家族となったのだ。
家族とはお互いに助け合って生きてゆくもの。
ぼくたちはそうやって生きている。
けれどある時、ぼくたちが家族であることを、
忘れてしまった最初の人が、クジラに襲いかかっていった。
実はぼくたちは、そのことを予測していた。
なぜなら、ぼくたちの記憶は複数の未来と繋がっているからだ。
人々は、記憶ではなく言葉で昔のことを伝え合っている。
人は物事についてよく考える力を持っている。
語り継がれて来た昔話しに、疑念を抱いてしまうくらいに。
そして、ぼくたちのストーリーを信じなくなった人々は、
すべてのつながりをも忘れてしまった。
だからぼくたちは伝えようとしている。
また、お互いが家族として生きてゆけるように。
このつながりを見失うことなく生きてゆけるように。
イラスト by Chii
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